ヒトはなぜことばを使えるか 脳と心のふしぎ (講談社現代新書)

by 山鳥重

Review: ★★★

「ことば」の構成からそれがどうやって脳で処理されているのか、そして「こころ」に対してどう影響するのか、またそのこころからどう影響されるのか、について前半は具体的かつ詳細に、後半は抽象的にさまざまな問いを提案しつつ読みやすくまとまっている。

「イヌ」という名前を認識するために、ヒトは多角的な情報を処理している、何気なく我々が日常行なっていることでも脳は絶え間なく動作し観察した物体やイメージを脳内で記憶しているシンボルと接続している。

本書では、脳に障害が発生してしまい通常の人のようには言語を理解・生成することができなくなってしまった人らの事例をエッジケースとして紹介しつつ、脳の様々な部位の機能に関して分析を進めていく。わかっていないことがまだまだ多いが、脳のある部位が言語の全てを司っているわけではなく、複数の部位が複雑に協力しながら言語を処理していることは非常に興味深い。

またことばの利用というのは、個人の脳内で閉じた処理はもちろんだが、社会におけるコミュニケーションの道具として使われている以上、そこでの運用という側面を考えるとさらに事象が複雑化するので、その理解が困難になる。

本書の最後には筆者の「こころ」とは何か、それを理解することはできるのか、という問いに対しての考えが綴られており、脳科学者ではないが、ことばを計算機で処理しようとしている身としても非常に興味がそそられる。