独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則
by 金出武雄
Review: ★★★★
隔週で定例雑談会をしている先輩から勧められた一冊. アメリカの名門,カーネギーメロン大学のロボットや計算機工学の有名な日本人教授である金出先生の著書である.
短く区切られたたくさんの章から構成され,研究者としての視点から問題解決から日本情勢について幅広く触れられている.
一冊を通して強く感じるのが,この人がひたすらに研究活動を楽しんでいる,と言うこと.文を読んでいるだけでその熱意が十分に伝わってくる.研究者を志しているものとしては大成功している研究者であってもいまだにこのように楽しんでいる先人がいるのは非常に嬉しい.
本書のサブタイトルにも入っているが,たくさんの例を用いて,素人的に考えて,玄人のように精密に実行することの重要性が説明されている. これは簡単に聞こえるが非常に難しいことであるように強く感じる.
自分も専門分野に関して必要としてたくさんの文献を読み知識を増やすが,その結果として自由な楽観的な発想が奪われ,面白そうなアイディアであってもそれを実行に移すことなく,その「失敗しそうな点」を探してしまう.知識が増えれば増えるほどそのような点を見つけることが上手くなる.
そうなると,結局うまくいきそうな誰でも思いつく,つまらない研究に落ち着いてしまうのである.それは論文までまとめたところで,面白いと思ってもらえないので読まれない.読まれない研究は存在しないのと同義である.
そこで本著で金出先生は「素人発想,玄人実行」を提案されているのである.実際にそのような発想で誰もそれまで考えたことがないような,考えたとしても無理だと思い実行に移さなかってであろう研究プロジェクトをいくつも成功に導いている.
この発想は研究者に限らず新しいことに競争的なフィールドで活躍しようとしている人にとって役に立つものであるだろう.
隙間時間に読めて挑戦する勇気とモチベーションをくれる一冊である.