RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる

by デイビッド・エプスタイン

Review: ★★★★★

近年,社会全体として,専門化を強く推奨していることに一石を投じる内容の一冊.専門家への道を歩いているところである今の自分にとって学びがたくさんあった.インターンやバイトで働いている時に漠然と感じてきた,現在の複雑な社会でサバイブするための考え方が,様々な例を用いて分かりやすく紹介されている.実世界における複雑な問題に向き合っている人にも,研究所等で深度のある問題に取り組んでいる人,というか脳汁出しながら働いているすべての人に勧めたい一冊.

本のコアとなるメッセージは完結で, 「単一分野の知識で解決するほど現在の問題は単純じゃない.なので,柔軟なスタンスで様々な分野の知識を獲得して活用しよう」 ということ.

本書では,チェスやゴルフのようなルールが明確なタスクに対しては集中した早期からの訓練が役に立つことがあるが,多くの人が相手にするような問題はそのように「優しくない」としている. 現に,科学や芸術で大きな成功を収めた偉人たち(ダーウィンやゴッホが例に挙げられている)が名を残す分野に足を踏み入れたことが非常に遅く,そこに至るまでに様々な,一見全く関係のない経歴を辿っていることにふれている.進化論を提唱したダーウィンは最初医者を志し,聖職者に転向し,そこから測量船であるビーグル号に乗船した.

ある分野で成功している人をみると幼少期からそのための訓練を積んでいると思いがちだが,困難で複雑な問題を扱っている人たちの多くはそうではないようである.

キャリア視点だけではなく,思考方法としても幅(レンジ)が重要である例も挙げられている.惑星の運動を記述するためのケプラーの法則を考えたヨハネス・ケプラーは,当時全く理解が進んでいなかった宇宙に関して考察を,「既存の枠組みにとらわれず」,「完全にその領域の外に出て考えていた」というう.対象分野外からの視点を持つことで取っ掛かりとなるアイディアを得ていた. この「外的視点」を持つために有効な思考ツールとして紹介されており,ケプラーも好んで使ったと言われているのが「アナロジー」である.

他にもいくつかの例を用いてレンジの強力さ,またそれを持っていないことによる危険性を提唱している.(NASA の例とかかなり面白い.)

冒頭に書いたように複雑な問題に対面する人たち(おそらく現代人のほとんど)にとってとりあえず読んでみると良い本であると思う.