世界はありのままに見ることができない なぜ進化は私たちを真実から遠ざけたのか

by ドナルド・ホフマン、高橋洋

Review: ★★★

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概要

「我々が日常見ている世界は果たしてその実体なのか?」という映画マトリックスが好きな人なら一度は考えたことがある問いに他分野的アプローチを試みた本.後半むずくてよくわからんかった.

ハイライトとコメント

つまり進化は、真実を隠して、子孫を生み育てるのに十分なだけ生存するために必要とされる単純なアイコンを表示する感覚作用を私たちに与えてくれたのだ。

複雑な現象に囲まれた世界を生存するためには,意識を払わずともその入力情報を削りまくる必要がある.それを目的関数の一つとして進化した結果,我々の知覚は実体ではなく,必要情報を含んだ単純な「アイコン」を認知するようになった,とのこと.これは日常生活的に直感的である.この特徴のおかげで EC サイトの商品紹介ページを見ているときに「送料無料」の文字列をすぐに見つけることができる.

私たちはブラックホール、クォークの動力学、宇宙の進化を記述する科学的法則を手にしている。ところが、ハーブティーを味わう、街路の騒音を聞くなどといった、ごくありきたりの経験を予測する法則や原理やメカニズムをいかに定式化できるのかという問題を解く手がかりをまったく持っていないのだ。

これは本当にそれ.調べれ調べるほど自分の頭の中で何が起こっているのか全然わからないことに絶望する.

あるいはもしかすると、私たちは進化の程度が低く、脳と意識の関係を理解するのに必要な概念が得られていないという可能性も考えられる。ネコは微積分ができないし、サルは量子力学を理解できない。ならば、ホモ・サピエンスが意識の謎を解明できるという保証は、いったいどこにあるのか? 私たちに必要なのは、さらなるデータではなく、既存のデータを理解する能力を与えてくれる突然変異なのかもしれない。

これは自分が好きな議論だ.脳や意識に関しての理解を深めるために必要なのは,さらなる研究ではなく,研究者の頭に電極を刺しその能力をさらに引き上げることかもしれない.

「適応は真実に勝る」

これはすぐには信じがたいことだが,人間が持っているセンサーが入力情報をどれだけ削除しているかをしれば納得できる.目からの入力のうち実際に脳へ送信され我々の意識まで届くのはごく限られたものである.

その関連で次のようなことが起きる.

いったい誰の知覚が真正でないのか? 人間の知覚が真正でないのか、それとも糞を食べる動物の知覚が真正でないのか?

動物の中には(e.g., 犬)自分のフンを食べる動物がいる.それは食べ物にありつける確率を踏まえた上で,フンを食べる必要がある場合がある.つまり,フンに関しての認知が人間のそれとは大きく異なる.人間も食糧にありつけない期間が途方もなく続けば進化の結果としてうんこを美味しく感じる時が来るかもしれない.

まとめ

とにかく後半の内容が複雑で理解が困難だった.だが,人間の認知がいかに「真実」や「実体」と呼ばれるものとは異なる可能性があるか,ということは理解することができた.そもそも認知における「真実」を何を基準に決めるのか?ということであるが.

無理やり生活の知恵に結びつけてみる. 本書では人間全体の認知に関して主に話が進んでいる.だが,これは個人レベルでも近しいことが言える.つまり自分の認知しているものをそのまま「真実」として他人に期待することはできない. 極端な例で,色覚異常者と健常者の間で色の認識に齟齬が生まれるように,男性と女性,若者と老人,さらには自分とあの人,の間でも一つの物体を全く違うように認識している可能性がある. それをどう矯正するかってのはまた別の機会に考えたいものだが,どうしても発生してしまってことを知っているのは多様性の中で生きることを強く要求される今日の社会においては重要なスキルであろう.